おはようございます。
今年は梅雨が長引いてますね。
今日はインプラント周囲炎について。
歯を失ってしまった部位に
人工歯根であるインプラントを埋入し再建するのですが、
インプラントもまた歯周病になります。
インプラントの歯周病は「インプラント周囲炎(Peri-Implantitis)」と呼ばれています。
インプラントには天然歯にあるような免役防御機構がないので、
インプラント体表面が感染した場合、炎症が進行しやすく組織破壊のスピードや程度が大きい。
近年、日本歯周病学会でも海外の歯周病学会でも
インプラント周囲炎に関する報告が非常に増えておりまして、
世界的にも関心が高まっています。
発生率はどれくらいか。
特定の原因はあるのか。
治療はできるのか。
現時点でインプラント周囲炎に関して報告されている内容を数回にわけてまとめてみます。
まずはインプラント周囲炎の原因についてです。
インプラント周囲炎の原因
歯周病患者のインプラント周囲炎発生率に関して、複数研究をまとめた報告によると、歯周病に罹患した既往のある患者の20%がインプラント周囲炎に罹患していた(JP, Atieh, 2013)。という報告があります。歯周病の既往がある方の5人に一人がインプラント周囲炎になってしまうという統計です。成人の80%が歯周炎に罹患しているという報告と合わせると、インプラント周囲炎は珍しい病気ではないということが言えます。また、歯周病の既往歴がある患者は、インプラントが骨に結合(オッセオインテグレーション)した後でも、インプラントが脱落してしまう確率が平均6%で起こります(JCP, Quirynen M, 2007)。では、インプラント周囲炎は感染症ですが、感染インプラント表面の細菌叢はどのようになっているのでしょうか。インプラントと天然歯は似た細菌組成であり(COIR, Shibli JA, 2008)、また、インプラントを埋入しアバットメント(中間構造物)を装着後二週間以内に残存天然歯表面と同じ種類の菌種が検出される(COIR, Quirynen M, 2005)。という報告を見ると、インプラント埋入をする際には口腔内の細菌コントロールが完了しなければいけないと言えます。この際の細菌のコントロールとは、すべての菌を完全除去するということではなく、全体量を可能な限り減らす。ということです。術前に全顎的クリーニングを行い、プラークや歯石を除去することが必要です。
インプラントの成功率を左右するものとしては、年齢、喫煙習慣、糖尿病、口腔衛生状態、歯周病の既往、遺伝、インプラント表面性状等が挙げられます。成功率を左右する上記の内容を術前診査を通して把握し、コントロールできることはコントロールする必要があります。インプラントの予後とは関係ないかもしれませんが、個人的な臨床経験からすると、栄養状態の悪い患者さんは組織治癒が遅くなる傾向にあります。また、インプラント周囲炎に罹患したインプラントの8割に余剰セメントが関与していた(JP, Wilson TG, 2009)という報告もあります。セメントを使ってインプラント上部構造をセットする際は、細心の注意を払って、余ったセメントをすべて取り除くことが重要です。これは術者の要因ですので、必ず無くさなくてはいけません。
インプラントは埋入して終わりではなく、長期にわたって健康な状態を維持することが大切です。診査診断、クリーニング、外科術式、補綴操作、メンテナンスの各ステップで心がけるべき点が多くあります。
矢野